KANTAN

18歳の次郎は、幼少の頃に自分の面倒をみて辞めて行った女中で乳母の菊の家を訪ねてみた。可愛がっていたお坊ちゃまとの10年ぶりの再会に喜ぶ菊。次郎は菊の家に邯鄲という里から来た枕があると噂で聞いてやって来たのだった。その不思議な枕は菊の家系が代々宝物にしていたもので、その枕で寝て夢から覚めると、何もかも虚しく馬鹿らしくなってしまうという。菊の旦那もその邯鄲の枕で寝てから家出してしまっていた。それ以来、菊の家の庭の花が咲かなくなってしまった。

人生が始まらないうちから、すでに世の中が馬鹿らしいと思っている次郎は、自分にはその枕の効き目はないことを試してみたかったのだった。次郎は邯鄲の枕で眠りについた。夢の中で次郎は美女や踊子たちに、ちやほやされるが冷たくあしらう。そして秘書も現われ、次郎は自分が社長であることを知らされた。しかし次郎は全財産を放り出し寄付したので、秘書の気回しで政治家となる。そしていつの間にか独裁者とされていた。しかし端から夢を生きていない次郎は夢の中で寝てばかりだった。

老国手に化けていた邯鄲の里の精霊は、このままでは、「現世のはかなさを知る」という教訓が次郎にもたらされないと考え、次郎を服毒死させて目が覚めるという筋書きに変えようとする。しかし次郎は、「夢のなかだって僕たちは自由です。生きようとしたって生きまいとしたって、あなたの知ったことじゃないじゃないか」と精霊の説教を聞き入れず、死ぬのを拒む。「邯鄲の枕」の教訓を与える任務が果たされないことに怒った精霊は、このまま次郎を生かして返すわけにはいかず、「あんたは一度だってこの世で生きようとしたことがないんだ。つまり生きながら死んでいる身なんだ」と迫るが、次郎は「僕は生きたいんだ」と言って毒薬をはねつけた。

朝、目が覚めた次郎を見た菊は、そこに変らない罪のない可愛らしい顔を見るが、亭主のように自分を見捨てて、さすらいの旅に出てしまうのかと不安になった。しかし次郎はずっと菊と一緒にここにいると誓う。そして辺りを見ると、庭の一面にきれいな百合や薔薇、桜草やすみれや菊の花々が咲いていたのだった。

「近代能楽集」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2020年11月25日 (水) 14:50 UTC

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